CEO 2019.06.30

社長Blog Vol.14: 既存産業の生存のためのアイデア

 弊社の新卒採用の応募者向けに開催している1DAYインターンシップを弊社の人事部が開催しており、つい先日そのインターンシップのグループワークの審査員を行わせて頂く機会を得た。現在の弊社の組織体制では、人事部門は管理部門に所属しており、経営管理本部長の管轄下での意思決定が行われるため、インターンシップカリキュラムに対して私社長が指示することは無い。だが当然の如く、企業理念にLegacy Market Innovation®を謳うクレストのインターンシップも、しっかりとこのLMIの概念が組み込まれていたお題であったことに正直大変うれしい気持ちを抱いたのはここだけの話である。
 
印刷業界をどうイノベーションさせるか
 
 1DAYインターンシップのグループワークのテーマは「縮小しゆく印刷業界をどうイノベーションさせるか」である。
つい昨今、有隣堂の私的整理のニュースに目を奪われたが、その他のあらゆる産業がデジタルディスラプションによって市場規模を縮小され、「最適化」されてゆくのは前回のこのブログ(社長Blog Vol.13:ディスラプションと最適化)に記載した通りである。
 1DAYインターンシップにて学生に渡されるのはこの表だ。
 
 
1991年をピークにじわじわと縮小しゆく印刷業界の市場規模のデータである。ここで学生たちに問われるのは、この産業に属する1社であなたが働いている立場であれば、どうやってこの市場での生存戦略をたどるのか?そしてどうやってこの産業が自らイノベーションを起こしゆくのか?という問いだ。
正直、この問に対する「確実な正解」が存在するならば、このブログの読者の皆様だけでなく、世界中のすべての人が知りたいはずだ。これほどまでに高度な問いを大学3年生に対して投げているのが弊社である。
 
多くの学生が陥ってしまうのが、自社の目先の売上をあげるための、直近の施策である。おそらく学生だけでなく、ほとんどの企業もこの目先の戦略に対して力を入れてしまい、長期的な視野を持てなくなっている企業が多い。
・フリーペーパー×デジタル(ex. XR、SNS連携など)のアイデア
・屋外広告の印刷物を増加させるためのアイデア
などという、B2C企業にとっての紙の新たな使い方的目線を持ってプレゼンをする学生が圧倒的9割にものぼる。
 
稀にこの印刷産業が参入すべき新たな市場を見つけ出す方向に思考が動き出す人たちもいる。
・意味のイノベーション(ex. ストロー市場への参入など、紙ではなかったものの紙化)
・印刷回路/プリント基板等への参入
・印刷工場と印刷希望者のD2Cマッチング
 
など、実際大手印刷会社や紙メーカー、印刷系ベンチャーが考えていそうな戦略が出てくることも稀にある。
 
 
この類のお題の答えは、大人になって自らの専門性が高くなる産業にどっぷり浸かれば浸かるほど、新たなアイデアが出にくくなってしまうのがいわゆる人間の思考停止状態と言っていいだろう。固定概念をいかに取り払って物事を考えることができるかどうかが、印刷産業に限らず、既存産業を変革するアイデアの一歩である。
 
 
ここで、興味深い動画を1つUPしよう。自転車でのレースにおける、固定概念を壊した動画である。

 

空気抵抗を減らし、ダウンヒルにおけるスピードの最大化がされ、更に人間の体力も回復させることにも一部寄与している、まさに「最適化」といえるフォームである。これこそがイノベーションである。

彼が一気に既存プレイヤーを追い越していく姿をグラフに表すと、以下の通りである。

Amazonであり、UBERである。
Amazonも顧客が享受する「ものを買う」という行為は同じでありながらも、それをインターネットの中に置き換えた。そして、UBERも「移動する」という顧客が享受する価値は同じでありながらも、この顧客を「移動させる」ビークルをマッチングという形で自社で資産を保有しないサービスを構築した。
Legacy Market Innovation®を提唱するクレストとしては、これを見て思うのは以下の疑問である。

なぜ、既存産業が自らUBERになれないのか?

 私はセミナーなどでよくこういった話をする。
「UBERの無い世界を想像して頂きたい。まだUBERなんていうアイデアのかけらも何もない世界が今日ここにあったるとしよう。そして今、あなたはアメリカでシェア1位のタクシー会社のCEOだとする。あなたは夢の中で、タクシーが完全にUBERやLyftによって淘汰されてしまった世界を見た。ユーザーがアプリ上で近くにいる車両を探し、瞬時にマッチングする。そしてその車両はタクシーではなく民間のドライバーの車両だった。夢から覚めたあなたは、『まさか、タクシーは永遠に安泰だよ』といいながらも、この夢があまりにも鮮明かつ忘れられず、あの日の夢で見たシェアリングサービスの会社が突如と現れて、あっという間に自社が潰される悪夢に毎日うなされるようになった。さて、既存産業であるアメリカシェア1位のタクシー会社のCEOのあなたは、タクシーのマッチングサービスを生み出せるだろうか。」と。

既存産業が自らディスラプションは起こせない、という話は様々な書籍でも語られ、多くの経済学者がそう言う。その理由をシンプルに記載すると以下の内容が挙げられるだろうか。

・既存産業の利益を破壊してしまう行為を自ら行うはずがない
・既存産業による利益があるため、「変えなければいけない」という思考に至らない
・仕組みの中で動く人材が社員の多数を占め、イノベーションを起こすことを業務として求められていない
・経営陣の思考停止
・思考停止した経営陣に対して万が一良きイノベーションアイデアが社内で出たとしても尊重されない

おそらく、上記理由からアメリカシェア1位のタクシー会社のCEOのあなたが、取締役会で「この先の未来、ユーザーがアプリ上で近くにいる車両を探し、瞬時にマッチングする。そしてその車両はタクシーではなく民間のドライバーの車両になる日が来るぞ。」と発言したところで、おそらくそれは笑い話になって終わってしまうことが想像つくだろう。楽観的な取締役はCEOにこう言うだろう。「ボス、そういうマッチング野郎が来る前に、もっともっと台数を増やして我々のタクシーで街を埋め尽くしましょう。アプリでマッチングするよりも道で手を挙げたほうが早いに決まってますよ。」と。

ここまで読んでいただいた読者の方々は察しがついただろう。既存産業が自らデジタルディスラプションやイノベーションを起こすのは本当に難しい。では、既存産業はベンチャー企業に破壊されることを待つしか無いのだろうか。いや、そんなわけはない。

 

LMIを起こすためのアイデア

レガシー産業が自らイノベーションを起こすためには、何が必要なのかを以下に整理する。

①自分の産業がディスラプトされるならば、どういう方法でディスラプトされるかを、事例から学ぶ

②ディスラプトされる前に自らそのディスラプターとなる組織を組成する

③既存事業が消えゆくまでの間、利益を確保し、またよりコアな既存事業への逃げ道を確保する

④既存事業とは離れたディスラプターチームを組成して成長させる

こういったプロセスであろう。

今回はこの特に①ディスラプターの事例について掘り下げることにしよう。
顧客享受価値×ビジネスモデル×テクノロジー の組み合わせのマトリックスにして頂くと、想像しやすい。

【顧客享受価値】

■コスト削減型
ユーザーがこれまで使っていた費用・時間等を大きく削減する価値を提供する。数%の削減ではなく、90%以上のコスト削減または無料化などを行うことによって大きな顧客価値が生まれる。
ex. 
Skype、Amazon、Sportify、LINE、Instagram、Google Map、Google Spread Sheet、フィリピン英会話。

■体験価値提供型
顧客体験価値の迅速な提供、カスタマイズ的提供、煩わしさの解消、デバイス内での満足度の享受、即時的満足、自動化による新たな体験の提供。
ex. 
Instagram、Google Express、Google Home、Amazon Echo、Amazon Prime、AppleMusic、RPA、SNS、Expedia、Sansan、ラクスル

■プラットフォーム型
プラットフォーム上にいるすべてのユーザー同士の最適なマッチング、需給の最適化、潜在的ニーズのマッチング。
ex.
メルカリ、ヤフオク、Airbnb、Uber、Uber Eats、buyma、iOS、Android、RaspberryPi、Salesforce App Exchange、Wix、Yaplli、Google Site

■意思決定・労力削減型
労働力の削減、リサーチコスト、ディシジョンコストの削減。
ex. レコメンドエンジン、カカクコム、Instagram、Youtube、Sportify、Netflix、Uber、AirBnb、Tinder、Pairs、Framingo、Kidsline、通い放題(レストラン、エステ、美容院、ジム)、OYO

■休眠資産活用型
使われていない資産や時間がお金を生み出すこととなるサービス。

ex. カーシェア、AirBnb、レンタルバッグ、資産運用サービス、お釣り運用、ポイント運用

 【ビジネスモデル】

■サブスクリプション

■プラットフォーム

■シェアリング

■C2C

■D2C

■広告主へ課金

■IOT・デバイス

これらの組み合わせでイノベーションを生み出すきかっけとなれば良いと思う。重要なことは、たくさんのアイデアを収集し、そこから類推し続けることである。既存産業の会社のメンバーのほとんどが、既存事業に忙殺されてしまいこの思考ができていない。ここがLMIへの道の第一歩である。

 

社会課題の解決

私の好きな言葉の1つにこの「社会課題の解決」というものがある。そしてビジネスの本質はここにある。社会課題というと大げさに聞こえるだろうが、わかりやすく言うならば、需要があるから供給が有る。ニーズがあるからビジネスが成り立つという原理原則のもと、我々はビジネスを行い、そしてお金を頂くことができている。

そしてこの社会課題に最も目を向けている組織は「国」である。あらゆる省庁が社会課題を解決すべく、様々な切り口から様々な物事を提案し、我々民間人がいち早く行動を起こすことができるよう、たくさんのネタを投下し続けてくれている。一方で非常に残念なことに、民間のビジネスマンはこの経済産業省や総務省のレポートを全くと行っていいほど読んでいないことが最近私がひしひしと感じていることである。

最後に、いくつかの省庁が挙げている興味深いレポートを紹介する。

■総務省 http://www.soumu.go.jp/ 
「未来をつかむTECH戦略」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000548068.pdf
http://www.soumu.go.jp/main_content/000561358.pdf

 

■経済産業省 https://www.meti.go.jp/
「「2025年の崖」の克服とデジタルトランスフォーメーションの本格的な展開」
https://www.meti.go.jp/policy/digital_transformation/index.html

 

■農林水産省 http://www.maff.go.jp/
農業競争力強化プログラム
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/nougyo_kyousou_ryoku/index.html

 

枚挙にいとまがないほど、すべての省庁が自らの担当領域に対するレポートを行っているので、これらを読み解く勉強会などを社内で企画することも非常に良い取り組みになるだろう。日本国が抱える社会課題の多くがこの中に記載されている。こういった省庁のレポートを読めば読むほど、日本国内の既存産業が自ら変化してゆかねばならないという重要性に改めて気づく。ディスラプターにやられているだけではいけない。自らがイノベーションを起こしてゆかねばならないということそのものが、国が認識している社会課題の1つでもあろうと捉えられる。

我々は自ら変化しゆかなければならない。弊社にインターンに来る学生のような、ピュアで純粋な頭を持って、これからの世界を変えてゆかなければならない。偶然にもこの私の投稿にたどり着いていただいた読者の皆様が少しでもこの話に共感頂くこととなれば、私にとってこれ以上の幸せはない。

 

株式会社クレスト
代表取締役社長 永井俊輔