ABOUT CREST 2019.08.29

【対談】看板にイノベーションを起こす理由~「場」に付加価値をつけていく。クレストが見据える、店舗ディスプレイの10年後~

ITが進化し、デジタル化が進む昨今、店頭の看板もデジタル化が進んでいます。株式会社クレストでは、店頭の顧客数や視認数が数値化できるesasyを開発。宣伝のツールではなく、アナリティクスの機能を提供するツールとして、看板のあり方や価値をガラリと変えました。看板屋の最大手が見据える、店舗の未来とは?クレストのL(レガシー)の責任者である阿部一久、I(イノベーション)の責任者である阪本治彦が、イノベーションに取り組む理由、そして、店舗の将来を語ります。

(構成・写真 渡邉奈月<ICPコンサルティング>)

 

株式会社クレスト サイン&ディスプレイ事業部 ゼネラルマネージャー 阿部 一久(写真 左)

2002年よりクレストにデザイナーとして参画し、現在クレストとしては最も社歴が長い。得意なビジネス領域はクリエイティブな二次元デザインと、交通広告関連のプロジェクト・マネジメント。クレストに人生を掛けて業界を変革するために奮闘中。

 

株式会社クレスト リテールテック事業部 ゼネラルマネージャー 阪本 治彦(写真 右)

2018年クレスト入社。2019年3月よりリテールテック事業部のゼネラルマネージャーに。クレスト入社以前は、旅行添乗員、飲食店店長から、Webディレクター、Webプランナー、マーケティング全般(オンライン・オフライン)、さらには人事コンサルティング、資金調達まで多彩な経歴を持つ。幅広い知見を元に、新規事業開発を手がける。

看板業界で最大規模に成長。その裏には間違いから始まった、あの有名企業とのお取引も

──今日はレガシーとイノベーションをテーマに、両事業部の責任者の方にお話いただきたいと思っています。まず、クレストの「レガシー」について教えてください。

 

阿部:すばり「看板屋」です、で話が終わってしまうのですが(笑)先代は元デザイナーです。「事業を大きくするには、看板そのものを作ろう」と、35年前に群馬県の前橋に倉庫を構え創業しました。思い出深いお客様は、カジュアルウェア大手のライトオン様です。今でこそ、500店舗の規模がある誰でも知る大企業ですが、当社をタウンページで見つけて見積もり依頼をしてくださったのは、まだ3店舗目くらいのときでした。先代も、よくある見積もり依頼として、当時の経理担当に見積もりを任せたところ、単価を間違えて相場よりかなり安く出してしまいまして…ライトオン様も非常にびっくりされたようです(笑)。おかげさまで、この一件をきっかけに商談の機会をいただくことができ、今も指定事業者としてお付き合いいただいています。

 

──ビジネスの成長のタネってどこにあるかわかりませんね…!大きく成長した先になぜイノベーションを起こす必要があったのでしょう。


阿部:基本的に看板屋は地域ごとに商売をするので、国内最大手がいて寡占するような業界ではなく、売上規模20~25億円くらいで頭打ちになります。そこでさらなる成長を考えた時に、イノベーションを志向したのには2つ理由がありました。一つは、お客様の変化です。お客様は看板を見て店舗に入るのではなく、ググってお店を探すようになってきています。そこで、「看板は『つける』ものではなく『はかる』ものである」と、差別化要因を見出し、江刺家直也(システムディレクター・リテールアナリティクスチームマネージャー)と現・代表の永井が「esasy」を企画・開発しました。費用対効果、ROIを最大化するツールと位置付けを変えたのです。二つ目は、レガシーな看板で実績を積んで来たからこそ、「実」のあるイノベーションを起こせるという使命感です。ベンチャー企業は「実」がないので、お客様はそのイノベーションを受け入れづらい。しかし、看板屋が看板に、付加価値としてカメラと計測機能をつけると、お客様は信用と納得をして受け入れてくださるのです。これが我々の考えている、「レガシーマーケットイノベーション」です。

100人が100人わからないのがイノベーション。その価値を丁寧に伝える

──その「イノベーション」を担っているのが阪本さんですね。

 

阪本:はい、当社が提唱するLMI(レガシーマーケットイノベーション)(のIの部分です。レガシーの世界では私たちはプロフェッショナルです。お客様の限られた予算の中で、阿部さんをはじめ職人芸で看板という平面の商品を提供します。一方、それが、デジタルサイネージとなると、いつ、何を流すか、という時間軸の奥行きができます。すると用途、活用方法、表現などに幅がでてきて、どの場所にサイネージを入れる、どう生かすといった、商品だけでなく、コンテンツの話ができるようになります。PPM理論でいう「金のなる木」はレガシーな看板でしっかりと稼いで、私たちイノベーションは「花形」事業として、さらに上に花形として伸ばしていきたいと思っています。

 

──具体的にどう上に伸ばすのでしょう。

 

阪本:まず阿部さんが言っていた「esasy」が、商品としてあります。今は、看板とesasyという計測カメラ、別の商品として提供されていますが、理想はレガシーに付加価値をつけて、単価をあげていくのが本当のイノベーションだと考えています。例えば、今まで1万円いただいていたお客様から2万円いただくようになるのがイノベーションです。しかし、予算はお客さまごとに決まっていますから、イメージとしては「1万円程値段が上がりますが、ご導入いただく事で売上がn%上がります」と導入に納得いただけるような、お客さまにとって価値が見えるシナリオを描くところまでがイノベーションだと思います

 

──お客様に価値が伝わらないと、よいものも売れませんね。


阪本:そう、だから売り方は難しいです。イノベーションは前例がないために、初めて見た人にはその価値が「わからない」ものです。100人中100人がわかるものはイノベーションではなく、その瞬間からレガシーになってしまいます。100人中100人がその価値について気付いていないものを作る、というのがイノベーションの本来の姿ではないでしょうか。イノベーションの身近な例は、スマートフォンだと思います。携帯電話という話すためのツールから、あらゆるアプリが入る端末として、いつのまにか使い方が変わっているんです。高機能化に伴い、端末の単価もあがっています。初期は数万円だったものが、今新しいiPhoneは単価10万円超えていますね。高くなったからといって、使わないという選択肢はなく、便利だから多くの人が購入し、使っているわけです。

看板は広告からアートに!?看板におけるイノベーションとは

──看板の世界ではどんなイノベーションが起こるのでしょう?

 

阪本:店舗だけで語られる世界には、限界が来ています。オンラインtoオフラインや、オフラインtoオンライン(O2O)という取り組みに見られるように、Web広告からいかに店舗に連れてくるか、逆に、店舗に来たお客様をいかにECサイトに誘導するかが関心事となっています。そうすると、競合としてネットマーケティング業界も捉えていかなければなりません。

 

阿部:そうですね、もはや、お客様に知ってもらうとか、誘導するといった用途では、看板の必要性は下がってきています。一番の代替品の脅威は、うちのリテールテック事業部なんです。

──看板は衰退するのですか?

 

阪本:もう一方のイノベーションの方向性は、「アート」ですアート作品を買う感覚で、ブランディングに利用してもらうのです。近年、大企業を中心にブランディングを意識した広告が盛んです。見ただけでは何の商品かわからない広告って、多いですよね。大塚製薬さんのポカリスウェットのCMって毎年、何のCMかわからないんですよね。学生が歌って踊って、青春をして終わる、みたいな。カロリーメイトもそうです。全然、あれでいいんです。あと日清食品さんなんかも、尖っていて一見すると意味が全くわからないCMを放映しています。でも、ブランディングならあれでいい。看板も同様に、ブランディングを打ち出して、街にアートとして存在していく。そうなっていくと面白いことになると思います。

 

阿部:ネオン管も面白いですね。あれはもともと、看板(ネオンサイン)だったんですよ。でも今では、作れる職人もいないし、付加価値のついた立派なアートです。このようにポジションを変えていきたいと思っています。まずクレストでは、テクノロジーとサインで価値を提供することに、ポジションをずらしました。今は、esasyがプロダクトとして市場に出回っていますが、その先にある本当のゴールは、「これは使える」とお客様が実装してくださって、勝手に波及していくことです。今、esasyは看板だけですが、使いこなすうちにお客様自ら、他の使い方を見出すこともあるでしょう。

 

「攻殻機動隊」の世界観でデータ配信!?データの価値に気づいてもらう

──現段階では、どんな方がesasyを「これは使える」と評価されているのですか?

 

阿部:いわゆる「偉い人」に刺さっています(笑)。人は感覚論で話をしてしまうものです。店長は忙しいと思っている、スタッフは暇だと思っている、本部の人は暇なはずはないと思っている。で、esasyで計測してみたら、来店客が店舗の前をめちゃくちゃ通っていることがわかる。共通言語になるんです。本部としては、データをもとにマーケットの予測や判断ができるようになり、店長としては、客観的な事実をもとに意思決定ができるようになります。

関連記事:【事例】物販店舗とレストラン店舗の同時計測と来店者属性のリアルタイム把握の実現【EATALY様 グランスタ丸の内店】

 

──看板とは使い方が変わっている、まさにイノベーションということですね。

 

阪本:そうですね。もともとディスプレイの効果を測定する装置だったのですが、汎用性が高かったので、店舗の計測という使い方に、ポジションを変えました。私たちはesasyというカメラを売っているというより、esasyで得られる効果を売っていると考えています。ですので、残念ながらデータに価値を感じられず、データ活用に至らずに解約に至ってしまうお客さまもいらっしゃいます。これは、私達の力不足でもあると感じています。そこで私たちは、データに価値を感じていただく啓発を兼ねて、計測したデータに自然に触れてもらえる環境を作るアプローチも考えています。今は、能動的にデータが載っているURLにアクセスないとデータに触れられません。これだと、よほど意識しないと見ないのです。今後は、普段利用しているチャットやSNSに「昨日の来店数はいくつでした」と通知するなど、より日常に入り込む形でデータに触れられる仕組みを作りたいですね。


阿部:突拍子も無いこと言いますけれど、脳の中に差し込んで、直接表示できませんかね?(笑)「攻殻機動隊」の世界ですよね。でも、未来ってそういうものかもしれません。歩いていてサイネージって意識して見ませんが、目の前に透明な画面で「スッ」って出て来たら見てしまう。こんな世界って、面白いですよね。

阪本:私の前の職場は、VRのソフトウェア開発会社だったんですが、VRは2015年からくる、くると言われていて、まだ来ていない(笑)。「仮想現実」とはよく言ったもので、攻殻機動隊のような空気中にホログラムを表示させるのは、今の技術では不可能です。一方、GoogleグラスやMicrosoft HoloLensのようなデバイスを用いて、現実世界にある情報を補完するMR(Mixed Reality/複合現実)や、ポケモンGoのようにスマートフォンを用いて現実世界に新たな世界を広げるAR(Augmented Reality/拡張現実)のような技術も出てきており、それらをまとめたxRという分野は、引き続き注目されていますし、我々の事業にも関わってくる可能性は高いです。看板は、そういったxRなどの最新技術でいろいろ変わってくる可能性があって面白い分野だと思います。看板は広告、すなわち宣伝の場です。宣伝をいかにお客様に嫌われないように表示させるかは、引き続き技術や心理的な研究が必要です。私たちは、イノベーションという軸で、サイン&ディスプレイの未来を模索して提案したいと思います。計測機械を作って売るだけでは、「クレストさん、カメラ売ってるだけで、全然イノベーションではないじゃない」で終わってしまいます。

店舗ディスプレイの10年後。「体験」を大切にするお客様に、場を提供する

──クレストの10年後って何をしていると思いますか?

 

阿部:ディスプレイでいうと、看板はなくならないと思います。安っぽい「ペラ看板」は淘汰されていくと思いますが、アートとして看板は残ると思います。空間演出のようなディスプレイは、「体験」の世界なんですよね。仮想現実で、何をしようが実物にはかないません。憩いの場を作るとか、何かを体験させてあげるとか、そういうディスプレイはまだまだなくならないと思います。

 

阪本:音楽業界では、CDが配信に置き換わった一方で、伸びている分野があります。それが「イベント」なんです。わざわざ音楽ライブの現地に行って生の演奏を聴く、その体験に対して価値を感じて、お金を払っています。「場」に対してお金を払うことに糸目をつけないという文化になりつつあるんですよね。私たちクレストも、「場」を作っていく会社になるべきだと思っています。ディスプレイという意味では、今、タイムズスクエアがそうですね。広告が景観を作り観光名所になっている。ただ、あれを10年後もやっているかというと、それは違うかなと。レガシーな造作物には、空間上の制約がありますお客様がやりたくても、これ以上無理そうであれば、「これはどうでしょう」とさらに「場」に付加価値をつける方法を、私たちが提案したいと思っています。チームラボさんやネイキッドさんがやっていることとに近いかもしれません。テクノロジーと向き合いながら、新しい表現方法を探っていますね。

 

──チームラボさんや、ネイキッドさんとの違いは?

 

阪本:チームラボさんや、ネイキッドさんは、興行にすることでビジネスとして成立させていますが、クレストは看板や広告製品として現実的な費用感でお客様に利用いただけるところを探りたいと思っています。今後、ARやMRなどの技術は活用が進みます。AIやドローンなど、他にも新しい技術が出ています。今は突飛だと思われる技術でも、10年後には本格的な商用利用が始まっているでしょう。「あんなおもちゃなんて」と一蹴せずに、「ハメを外せる(=常識にとらわれない)」人たちのチームとして、リテールテック事業部を位置付けて、サイン&ディスプレイ事業部のお客様にプラスαの価値をつけていくということをやっていくようになるのではないかと思います。

 

──最後に読者にメッセージをお願いします。

阿部:クレストは、「早い、安い、うまい」の看板屋とは異なります。店舗、看板、広告・・・それぞれの本当の意味を考えながら提案している会社です。それがお客様の動向や、売上に直結してくる重要な部分なので、「つけて終わり」の看板屋とは違う!とお伝えしたいです。


阪本:イノベーションは9999の失敗の上になりたつと言われています。クレストはリテールテック事業部がある特殊な看板屋です。「完璧を目指すよりまず終わらせる」「走りながら作っていく」、私たちの事業部ではそんなスタートアップのスピリットを大事にしながら、他の看板屋さんにできないことをやっていきたいと思っています。今からお付き合いいただくと、将来、面白いと思いますよ。